月面調査中の宇宙飛行士が、岩の陰で宇宙服を着た人間の死体を発見する。死後の経過年数は、約5万年。
5万年前に死んでいるはずの人間が、なぜ月に? しかもその「人間」の骨格や歯はホモ・サピエンスと完全に一致しているのに、生きていた時代の地球には、そのような技術を持った文明の記録が存在しない。
国際宇宙機構の調査チームが発足し、各分野の科学者たちが証拠を持ち寄って議論を重ねる。一つの答えを出すと、別の矛盾が浮かび上がる。 仮説が積み上がるたびに、謎はより深くなっていく。
この完成度で数十年前の作品、というのが信じられなかった。
「今年発売と言われても疑わない」と思うほど、問いの立て方も謎の展開も洗練されている。1977年の作品とは思えないほど、読み心地が新鮮だ。
物語の構造はSFというよりSFミステリに近い。派手なアクションも宇宙戦争もない。科学者たちが証拠を並べて推理し、また崩れて推理し直す、その繰り返しが純粋に面白い。読み進めるほど「答えはなんだ」という気持ちが強くなる。
重量級SFを読んだ後に手に取ったが、これはこれで完成された傑作だった。