目が覚めると、男は何も覚えていなかった。
自分の名前も、なぜここにいるのかも、まったく分からない。分かるのは、自分が宇宙船の中にいること、そして隣に2つの死体があること。それだけだ。
記憶が少しずつ戻る中で、男——ライランド・グレースは、自分が途方もない使命を背負って宇宙に送り出されたことを思い出していく。地球は「アストロファージ」と呼ばれる謎の微生物によって太陽エネルギーを奪われ、このまま放置すれば文明が終わる。その原因と解決策を見つけるため、たった一人で太陽系外の恒星を目指しているのだと。
序盤はグレースの記憶回復と現在の状況把握が並走する形で進む。科学の知識が随所に出てくるが、難しくなく、むしろワクワクする形で語られる。
読み終わったあとの余韻が、しばらく消えなかった。
SF作品として、科学考証の緻密さと物語の面白さが高い水準で両立している。「こういう問題が起きた、どう解決するか」という構造が繰り返されるが、毎回その解決法が納得感のある形で提示される。読者も一緒に考えながら読める。
中盤以降に起きる、ある展開が特に印象的だった。それまでの孤独な雰囲気が一変して、物語が全く別の色になる。それが何かは読んでからのお楽しみ。
ハードSFが苦手な人でも入りやすく、三体シリーズを読んで「もっとSFを読みたい」と思った人には特におすすめしたい一冊。